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個展を振り返って
一種の磁場を実現するために
阪急梅田・石橋駅下車徒歩3分。閑静な住宅街の入口付近に雰囲気のある新しい画廊が建っていた。
それが「ぶらんしゅ」だ。
自然光を活かした明るい空間と壁。
100号~60号を中心に小作品を少しだけ混ぜた20数点を展示した。
筆勢、タッチを前面に出したオールオーバー形式。
当時の自分は絵画とは要するに様々な情報を載せた板に過ぎないと考えており、情報(絵の具、支持体、平面性、行為の痕跡とそれによる時間性)と、自分の想い(詩的な情意)といった内的、個人的志向性が深くクロスオーバーする一種の磁場の実現。
―それが自分の求める平面=作品だと思っていた。
ここのところは今もたいして変わっていない。
ただ、現在ではこの平面性と表記した部分が ―平面的な表面をどこかにもつ、全体として平坦な印象を保ってさえいればよい。
―という具合に間口を広く考え始めている。
このことによって表現の幅がより拡張され自由度も増えるだろうと思っているからだ。
蜷川正勝さんについての思い出
余談だが、このぶらんしゅでの企画個展の実現は蜷川正勝さん(故人)という方のご紹介によるものだった。
この頃、神戸・大阪での発表が増えているが、これもひとえに蜷川さんの尽力によるところが大きい。
蜷川さんは私より30歳も上で、父方の親戚の叔父であり、今のアトリエを造る折にも随分お世話になった。
博識な方で、大阪の官庁を定年退職された後は、趣味の画廊回りを続けられていたそうだ。
こういう経緯もあり、私とはよく話が合った。
時には一ヵ月私の住まいに逗留されていくこともあった。
壺や書、焼き物から篆刻まで、また美術についても古今東西、近代から現代美術まで横断する知識の深さには驚かされた。
しかも、その一つ一つに、蜷川さん独自の解釈と見解をお持ちで、それが面白くて、私も忌憚のない意見をぶつけたりして実に様々なことを教えて頂いた。
今となっては、このぶらんしゅの個展も含め、キラキラと輝いている懐かしい思い出となった。
2021.5原 大介